5月の風
「キレイだね」
立ち止り、すっかり新緑に彩られた桜の木を見上げていると、後ろから声が掛かる。
「もう桜の花は散ったけど、葉っぱの緑がすごくキラキラしてたから、思わず立ち止って見てた」
すぐ傍まで寄ってきた夏目が、眩しそうにしながら桜を見上げる。
「お日さまの光が当たって、キラキラしてるんだね」
桜の花が散って早やひと月余り、だんだん暖かさが増す季節は、植物の成長も早い。
薄ピンク一色だった桜の木も、今はすっかり新緑の色だ。
そんな木々に明るさの増した太陽の光が降り注いで、キレイな緑色がキラキラ輝く。
「早いな…夏目と知り合ってから、もう2年にもなるのか…」
「うわー、もうそんなに…。長いようで短かった気がする」
「まあな」
夏目を取り巻く環境は特殊だから、そんな風に感じるのかもしれない。
そのおかげで俺にもいろいろあったけど、それはそれでいい思い出。
なにより夏目と知り合えたことが、一番嬉しかった。
「桜…また来年も一緒に見ような」
「うん!!」
勢いよく頷いた夏目は、それはそれは嬉しそうな笑顔で、さりげなく肩に持たれてきた。