ヒカルの碁 和谷ヒカ
そろそろ寒さが身にしみる季節となり、部屋にコタツを出したら、そこはすっかりヒカルの住処となりはてている。 今更…と思いつつも、家主の威厳はどこにも無いことに、いささか危機感を覚えつつある今日この頃。 「今年ももうすぐ終わるね」 「そうだな」 今…
結局、佐為の奴を水族館に連れて行ってやれなかったな。 あの時約束したのに…絶対連れて行ったやるって。 でも、約束を果たす前に佐為はいなくなってしまったから…。 「和谷」 突然呼び出されて、何事かと飛んできた和谷に向かって、ヒカルが言った。 「水族…
今年の天候は何かおかしい。 春はやたらと雨が続いて、五月晴れの日も余り無かったと思ったら、梅雨に入った途端に雨が降らなくなった。 ほんの少し、気持ち程度の雨が降ったかと思うと、すぐに晴れ間が続くのだ。 しかも、暑い。真夏の日差しなのだ。夏は好…
棋院に顔を出した帰り道、ヒカルは伊角と和谷と3人で食事をすることになって、繁華街の方へと足を延ばした。 何処に入ろうかと、店を物色していると、突然伊角の携帯から、軽やかなメロディが鳴り出した。 「ごめんちょっと、待ってて」 そう言って慌てて、…
夏の日の夕暮れ時、昼のぎらぎらした太陽に照らされたアスファルトの熱がまだ残っていて、足元からの熱気に体力が奪われていくような気さえしながら、和谷のアパートにたどり着く。 ドアノブを回してドアを開けるが、そこも湿気と熱気の嵐だった。 「あづぃ…
音もなくひらひらと空から舞い降りてくる真っ白な欠片。 何もかもが白く染まった一面の景色の中に佇んでいると、自分までもがそのままこの音のない世界の中にその一部として取り込まれてしまいそうになる。 ただひたすら落ちてくる白い小さな欠片を見つめて…