小鳥
妖したちが例によって、林の中で宴会などと称したどんちゃん騒ぎを繰り広げる中、夏目は酒をかっ食らうニャンコ先生を置き去りにして、ふとその場から離れた。
林の向こうから微かな声が聞こえた気がしたのだ。
そんな夏目の様子に気づいたヒノエが、さり気なくそのあとを追いかけていく。
「あっ…」
「どうした、夏目?」
突然足を止めた夏目に続いて、ヒノエも動きを止める。
「ヒノエ?」
「なんなのさ?!」
急に横に立たれたことに驚く夏目をよそに、そこで立ち止った理由をヒノエは知りたがり詰め寄った。
「ああ…うん、あそこに何かいるみたいなんだけど…」
夏目が指さす方向を目で追って、即座にそこまで飛んで確かめに行ってみる。
「夏目来てみな」
しゃがみ込んで様子を見ているヒノエの傍まで駆け寄ると、夏目も一緒にそこにあるものを覗き込む。
「かわいそうに…」
それは小さな雛鳥だった。
なぜこんなところに落ちているのかは分からないが、とにかく親鳥から引き離され、寒さと餌不足のためか、ぐったりとしている。
おそらく時折力なく鳴く声が、夏目の耳に届いていたのだろう。
夏目はその雛をそおっと拾い上げると、持っていたタオルの上にのせ軽く包んだ。
「どうするんだい?」
「助けるんだよ」
「またあんたは…」
ヒノエが呆れたように溜息をつく。
「だって、放っておけないだろっ!」
それが夏目のいいところなのだと、ヒノエにも分かってはいる。
そのまま走りだそうとする夏目に再び声をかける。
「どこに行く?」
「とりあえず、一番近い田沼のところ」
最近よく聞く名前だと認識して、ヒノエは三篠に声をかけた。
「三篠、夏目を送ってやっとくれ」
いつのまにやら、彼らの傍らに来ていた三篠がすぐに夏目を田沼の家の近くまで送り届けた。
「ありがとう、三篠」
「なんの…あの斑が役に立たないときはいつでも呼んで下され」
そう言い残し、三篠は去って行った。
「夏目…?」
突然の訪問に田沼が驚いて、駆け寄ってきた。
「どうしたんだ?」
「あっちで小鳥が落ちてて…」
「ん…?」
首を傾げる田沼に夏目は抱えていた包みをそっと差し出して、開いて見せる。
その包みの中を覗き込んで、あっ…と声を上げた田沼はすぐにそのぬくもりを手で触れて確かめた、
微かながら、それに反応して小さく鳴いた小鳥をタオルで包み直した田沼はそのまま夏目の腕を引いて、自転車が止まっている場所まで移動した。
「父さぁ~ん、ちょっと出かけてくるから!」
母屋に向かってそう叫ぶと、自転車にまたがり夏目にも後ろに乗るように促して、すぐにこぎ出した。
「確か、駅の傍に動物病院があったよな」
「在ったっけ?」
「絶対にあった!」
強くそう応える田沼の背中が、いつもよりすごく大きく感じられ夏目はそんな彼をとても頼もしく思ったのだった。
その後、田沼と一緒に駆け込んだ動物病院で雛を運よく助けてもらった2人は、かいがいしく面倒を見続けて、その雛を見事に大空に巣立たせたのである。