ココナッツ・ムーン
月明かりの下、暗がりの中で青白く照らされた森の木々と二つの人影。
今晩の寝床と決めた川岸よりは、少々外れた場所でつい今しがたまで、カイルはジューダスに剣の稽古をつけてもらっていた。
「暑っ、けっこう汗かいちゃった」
そんな火照った肌にひんやりとした森の空気が、とても心地よく感じる。
「やっぱりジューダスは、強いよね」
「お前の剣さばきも、なかなかのものだと思うが…」
「そうかなぁ」
褒められて、カイルはへへっと笑って、嬉しそうな顔をする。
こんな風にジューダスが人のことを褒めるなんてことはめったにないから、カイルは本当に嬉しかったのだ。
「オレの剣、ロニに少し教わったぐらいでさ、あとはほとんど自己流なんだ」
「そうか…」
ジューダスはあえて、ルーティのことは口にしなかった。
ルーティが息子であるカイルに、自ら剣の手ほどきをしなかった理由が、痛いほどよくわかったからだった。
けれど、男の子が自らの手で剣を取るのを止めることまでは、いかにルーティでも出来なかったと見える。
結局、カイルは、あのスタン=エルロンの息子なのだ。
やはり、血は争えない。彼の資質を、カイルはそっくり受け継いでいる。
「いつも、ロニとばっか稽古つけてたから、なんか代わり映えしなくて、最近こうしてジューダスが相手してくれるようになって、少し腕が上がってるような気がしたんだ」
そればかりが原因ではないだろうと、ジューダスは思う。
これまで何度となく戦い抜いてきた実戦の積み重ねが、カイルを強くしたんだと。
「…似てきたな」
カイルの顔がパァーっと輝く。
「それって、父さんに…ってこと?」
「…ああ」
ジューダスが頷いた。
途端にカイルの表情がくしゃりと崩れた。
「…どうした?」
ジューダスがカイルの顔を、覗き込む。
「…ん、なんか嬉しくて」
「………」
一瞬押し黙ったジューダスが、口を開く。
「スタンに似てきたって、ことがか?」
「…うん」
あまりにも素直な反応に、ジューダスが面食らってしまう。
「オレ、父さんの剣の腕がどれほどのものか知らないから、だから、ジューダスに少しでも近づけば、父さんにも近づけるかと思ってて、でも似てるって…ジューダスが似てるって言ってくれて、すごく嬉しい。オレ、父さんに近づけたのかなって…」
「…すぐに追いつける」
「うん、ありがとう…ジューダス」
ふわりと腕を回して、カイルが抱きついてくる。
「父さんよりも、大好きだよ…」
耳元で、甘く優しく囁いた。