さくらさくら
「ずいぶん、暖かくなってきたな」
「ああ」
外はついこの間まで刺すような風が吹いていたのが嘘のように、暖かな空気で満ち溢れている。
冬の間は、山には羊を連れて行けないから、村の周りの草原に放つ。
「もうすぐ山に入れるなぁ」
「お前、山に行ったからって居眠りなんかしたら、容赦しないからなっ」
「もうしないって…お前の試し技の餌食は真っ平だ」
「そう言いながら、いつだってお前はすぐに何処ででも眠るだろうが…」
いつでもどこででも、コロッと横になった途端、すぐに寝息が聞こえてくる。
そんな光景を何度となく、目撃してきた。
「春は眠いんだよ」
「春だけ…」
リオンが、それだけじゃないだろう…という顔をした。
「はいはい、どうせ俺は眠り魔ですよ」
「なぁー、そう言えばジョニーの奴が言ってたんだけどさ、あいつの国の方じゃ、春になると木が真っ白に見えるぐらい見事に咲く花があるんだって」
「…桜っていうんだ」
「なんだリオンは、知っているんだ」
「実際には見たことはない」
「ふ~ん」
「なぁリオン、いつか行ってみようよ」
「その、桜って花を見にさ…」