SWEET HEART
その日、ロイドは町の中を歩いていて、何かとても違和感を感じていた。
すれ違う人すれ違う人が、何故だかみんな花束を持っているのだ。
――なんでだろう…?
まさか行き交う人全てに関わる人が誕生日…なんてことは有り得ないよなぁーなんてことを考えながら歩いていたロイドの前に、コレットが現れた。
「どうしたの…ロイド?」
店から出てきたらしいコレットが、いぶかしげな顔をしているロイドを気遣う。
「ああ、コレット」
「変な顔してるよ、ロイド」
「う~ん、なんかさ、町の人み~んな、花束持って歩いてるんだけど、なんでだと思う?」
「えー、そうだったぁ?」
「気付かなかった?」
「うん。私買い物するのに夢中で、全然気がつかなかった。 …なんでだろうね?」
「う~ん、なんでだろう」
「…そうだ、ゼロスさんに聞いてみるといいかも!」
「あっ、そうか…この町のことだったら、あいつに聞いてみるのがいちばんだな」
「じゃ、ロイド、はいこれ」
手渡された小さな包みに首を傾げる。
「何…これ?」
「チョコレートだよ」
「あっ…」
思い出したように声を上げるロイドに、コレットは手を振った。
「じゃあ、私他の人にも渡してくるから、ロイドは一人でゼロスさんのとこに行ってね」
「あっ、うん。ありがとうコレット」
――なんだ、今日はあの日だったんだ。でも、なんで花束…しかも男女関係なく…?
コレットとは反対にもと来た道を戻りながら、やっぱりロイドは首を傾げる。
ロイドの知っている今日という日の習慣とは、この町の人の行動が、何か当てはまらない。
――帰ってゼロスに聞いてみよう。
屋敷の傍まで来たら、その玄関の前にはたくさんの人だかりがあった。
人の波を書き分けて入ろうかどうしようかと躊躇していると、玄関から顔を出したゼロスに見つかり、大きく声を掛けられ、みんなの注目を浴びてしまった。
「ハニー、お帰り。町の様子はどうだった?」
人に囲まれて身動きが取れなくなりそうな気配を察して、慌ててロイドは屋敷の中に飛び込んで
扉を閉めたのだった。
「おまえさぁー、あんだけ人が集ってんのに、むやみに顔出すなよなぁ」
「ああ、あれのことは、セバスチャンに任せてあるから大丈夫」
「…にしたってなぁ…」
「で、あれって、何?」
「そりゃ、俺さまのファンでしょ」
ゼロスがさらりと言ってのけた。
「そんなことは言われなくても…じゃなくてさ、今日って、バレンタインだろ」
「ああ、そうだな」
「…で、なんで、花束持って押し掛けてる訳…あの人たち?」
「バレンタインだからでしょ」
どこかずれている…何故か、話がかみ合わない。
「だからー、バレンタインなのになんで、花束な訳…? それも男女問わずに」
「それが何か可笑しいわけ?」
「えっ…だって、バレンタインはチョコだろう」
「はぁ…?」
「…違うわけ?」
「もしかしてそれって、女性から男性に…って奴か?」
「そうだけど…」
「そうかぁー、シルヴァラントとテセアラの習慣の違いだな」
ゼロスは、テセアラのバレンタインの習慣について、ロイドに語って聞かせ、逆にシルヴァラントの習慣についても彼に詳しく聞いてみる。
「告白の日かぁー、それもいいかもしれないな。でも、それだけじゃつまらないだろ、だからテセアラ風に感謝も込めてっていうのが、いいと俺さま思うんだけど、ハニーはどう思う?」
「オレも、そう思う」
「だよなぁー、別に花束でもチョコでも、贈り物は何でもいいと思うし…」
「…で、ハニーはチョコレートもらったわけ?」
「一応な…義理チョコだけど…」
「ふ~ん」
「そういうおまえは、あんなに取り巻きがいるじゃないかっ!」
少し拗ねた風に言うロイドだったが、一瞬ソファーの後ろで屈んだゼロスが、立ち上がった瞬間に手にしていたものを見て、あっけにとられた。
「じゃ~ん、俺さまから、ハニーに愛と感謝を込めて、プレゼント」
差し出されたあまりの大きさのチューリップの花束に、ただ呆然と立ちつくすだけだった。
「ハニー?」
「ああ…ありがとう」
「それだけ? 俺さまもっと違うお礼が欲しいなぁー」
「調子にのんなっ!」
そう怒鳴りながらも、真っ赤な顔をしたロイドは、ちょんと軽くゼロスの頬にキスをしたのだった。