RUBY
「ロイドく~ん、オレ様、買い物に行ったりしてもいいかなぁ」
アルタミラに着いてホテルに入り、ほっと一息ついてみんながそれぞれ自由に動き始めた頃、ベッドの上で、ごろんと寝転がって一休みしていたロイドに、ゼロスがわざわざ傍まで寄ってきて声を掛けた。
「別に好きにすればいいよ…」
そうと答えてからムクっと起き上がり、一瞬思案したロイドが、部屋を出ようとしていたゼロスの後を追いかけて、腕を掴んだ。
「…俺も行く」
そう来るのを予想していたのか、ゼロスは後ろ向きのままフッと笑い、振り返って大きな笑顔を振りまいて、ロイドの腕を取り、エレベーターに向かって一直線。
ドアが閉じるなり、有無を言わさずロイドをぎゅっと抱きしめた。
「ゼロス…おい、離せってっ!」
腕の中でもがくその身体を離す振りをし、不意打ちでその唇をついばんだ。
「ゼ~ロ~スっ!」
拳を振り上げ、ロイドが肩を震わせ怒っていた。
「わっわっ、ゴメン…って、ちょっとロイドくん不足だったんだってば、だから許してって、ね、ね?」
エレベーターを降りたところで、手を合わせて謝るゼロスに、とても誠意は感じられなかったけれど、いつものことだと諦め、ロイドは外へと歩き出した。
「じゃ、お詫びにオレ様が、遊園地に連れて行ってあげよう」
「遊園地ぃ~?」
「嫌いなの…?」
「いや、そういうわけじゃないけど…」
「じゃ、行こう行こう」
強引なゼロスに引きずられ、ロイドは遊園地へと連れて行かれてしまった。
「ふ~ん、ここが遊園地かぁ」
「実は、遊園地を知らなかったとか…」
「うっ、うるさいっ!」
シルヴァラントには、存在しないものだから、生まれてこのかた、こんなものを見るのも初めてだったりしたのだが、そう告白するには少々恥ずかしさがあった。
「どうせ、俺は田舎者だよっ!」
「まあまあ、そんなことは気にしなくていいからさ、大観覧車に乗ってみないか? すっごく気持ちがいいんだって」
「…うん」
ゼロスはロイドの手を引いて、観覧車に乗り込んだ。
動き出したゴンドラがどんどん上に上がっていくのに連れ、ロイドの関心は窓の外の景色に移っていった。
「すっげぇーなぁ、あんなに遠くまで見渡せる!」
「でっしょう。感激した?」
「した、した。でも、それって、おまえの手柄じゃないだろう」
さりげなく、ゼロスに釘をさす。
「その通りなんだけどねぇー、なんか今日のロイドくんてば、オレ様に冷たくない?」
「別にぃー」
「そうかなぁー、絶対冷たいと思うんだけど」
別にたいした訳があるわけでもなかったが、ゼロスが気にしているようなので、ロイドは自ら、ゼロスの機嫌取りに走る。中腰のまま立ち上がると、ゼロスの唇に自分の唇を合わせただけの軽いキスをした。
「ロイドく~ん」
感激のあまり抱きついてきたゼロスに、ロイドは本日2度めの拳を振るわせた。