MINERAL
平坦で、砂っぽい道を延々と歩いている時に、ふと落とした目線の先で、きらきらと陽の光に照らされていた石を見つけた。
「どうした…」
道端で急にしゃがみこんだため、どうかしたのかと心配したらしいゼロスに声を掛けられる。
「なんか光った気がして、よく見てみたらこれっ!」
拾った石を自慢げに、手のひらの上で転がしてみせる。
「ああこれは、蛍石っていうんだぜ」
「へーこれって、蛍石って言うんだ」
今度はその石を指でつまんで、陽の光にかざしてみる。すると、その石がキラキラと、とてもきれいな色に輝いた。
「なーなー、きれいだぞこれっ! 見てみろよ」
ゼロスの目の前に石を突きつけると、あいつはそのまま石を覗き込むように顔を近づけた。
「自分で持てよ」
「やーだっ、だってせっかく、ハニーの傍に寄れるのにもったいない」
「なっ…何言ってんだよっ」
慌てて、ゼロスから離れようとしたが、さり気無く回されてきた腕に、それを阻まれてしまった。
「逃げないでよね、ハニー」
ゼロスの腕は何気に強い力で、あっという間にそのまま抱きしめられる体勢になってしまう。
「なぁー知ってる? これの別名」
抱きしめている腕とは反対の手で、石を奪い取る。
「知らない…」
蛍石という名前だって知らなかったのに、そんなこと知っているはずがないじゃないかと、心の中で思いながら、応えるとゼロスがさもおかしそうに笑った。
「…だよな」
「なんなんだよっ!」
バカにしているのかと、声を上げると、ゼロスが応えた。
「浮遊石」
「えっ?」
「昔、これを使って飛ぶ技術を開発していたことがあるらしいって、話だぜ…聞いたことないか?」
石を陽にかざすとキラキラと輝いてきれいだが、こんな石にそんな力があるとはとても思えなかった。
「知らないけど、こんな石にそんな力があるのか?」
「まあ、一応研究資料は残っているらしいけどな、あんまり役には立たなかったみたいだ」
「やっぱ、飛んだりなんかしなかったんだろう」
「んー、そうじゃなくて、この石自体の力はそこそこあるらしいんだけどな、どれも結晶そのものが小さいっていうのと、あとは人や大きな物を浮かせるためには、ものすごい量が必要だってことで、おしゃかになったらしいぞ」
「ふ~ん、そうなんだ」
ゼロスの手から、石を奪い返して、再度陽の光にかざしてみた。
「でもさ、こんなにきれいなら、飛ぶ力なんてなくったっていいじゃん。いろんなものに使えるだろう」
「まあ、確かに今は飾り石として、重宝されているけどな」
そういえば、ダイクの仕事部屋に、こんなような石ころが転がっていたのを見たことがあったかもしれない。飾りの小さなネックレスやイヤリングに加工するのには、ちょうどいい大きさだ。
「俺にでも、加工できそうだな…これなら」
これなら、ちょっと削って、ペンダントにしてもいい。記念に、こいつにやるのもいいかな、と思う。
「そうかぁー、お前そういうことできるんだったな」
「じゃあさ、俺さまに何か作ってくれると嬉しいなぁー、ハニー」
そう言って、またゼロスがまとわりついてきた。
普段から少々過剰気味なゼロスのスキンシップに、いささか辟易としている。
「もういいから、うっとうしいから離れろって! ネックレスでもペンダントでも何でも、お前の好きなもん作ってやるからっ」
強請られなくても最初から作ってやるつもりでいた…などということは、おくびにも出さずに、さも面倒くさそうに言ってやる。
「だけどさ、この石こうして光に当てると少し光るだろ、これって浮かぶ力に連動しているのかな?」
「さあ、どうだろうな、実際、石自体が浮かぶのを、見たことないしな」
「浮かんだらいいのにな」
そうぽつりと呟いたら、ゼロスが頭をくしゃくしゃと撫で回した。
「そう思っていればいいじゃん。もしかしたら、いつか浮かぶところを見られるかもしれないし。だからさ、ハニーはこれで俺のためにペンダントをこさえて、そんでもって、いつか石が浮かぶのを見るために、ずーっと俺と一緒にいるっての、それどうよ? 名案だろ」
一緒にいたい気持ちを、さり気無く汲んでくれるそんな気持ちが、とても嬉しい。
「そうだな」
そう答えて、抱きしめられたままのゼロスの胸に頬をすり寄せた。